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25話 恐怖から安堵へ、あーちゃんの誕生

Author: みみっく
last update Huling Na-update: 2025-11-10 06:00:11

 レイニー様に捨てられれば解放となって嬉しいはずなのに……自分に誓ってしまった契約と従者契約があるため、裏切れない。裏切りの代償として何が起こるのか分からないことへの恐怖もある。そして何よりも、裏切ろうとすら思えなくなっている自分に驚いていた。漠然とした恐怖から解放され、子供のような純粋さに触れることで、ディアブロはレイニーに不思議と惹かれ始めていた。

「すみません……疑問に思ったことを口に出してしまって」

「あぁ〜。あはは……飼い主に似るんだねぇ♪ 俺もね、疑問に思ったことは口に出しちゃうんだよね〜。一緒だね〜」

 あーちゃんの頭を撫でて、レイニーは微笑んだ。その温かい感触に、あーちゃんは不思議な気持ちに戸惑っていた。「……なんだ……この温かい気持ちは……」

♢魔法の点取ゲーム

「あーちゃん、あーちゃん魔法のさぁ……点取ゲームしよ♪」

「点取ゲームですかぁ? 何を賭けますか?」

 あーちゃんは悪戯っぽい顔をして聞いてきた。

「ん〜じゃあ、あーちゃんのご飯を豪華にしてあげる!」

「……はい?」

 あーちゃんが戸惑い、聞き返した。

「はい? って、あーちゃんペットだし〜。本当はペットの餌だよ?」

 残飯だ、とレイニーは付け加えた。

「……はい。それでお願いします」

「じゃぁ〜あーちゃんが負けたら?」

「……えっと……」

 自分で言い出しておいて掛けるものがないことに気付いた。レイニー様が欲しがりそうな物は持っていない。地位や金、名誉を提示しても興味がないだろうし……。今思いついたものは全て、レイニー様の実力で容易に奪えることを嫌というほど味わったばかりだ。あーちゃんが困った表情をしていると、レイニー様が声を掛けてきた。

「ん〜じゃあさぁ。今夜、一緒に寝てもらおうかなっ」

「え? あ、はい……それで良いのですか?」

「うんっ♪」

 あーちゃんは、戸惑った表情で考えた。勝っても負けても痛手はない……欲を言えば勝って豪華と言われる飯を食いたいが。

 ゲームを始めると、レイニーがパシュ……と的に当て、ど真ん中に命中させた。あーちゃんも擬態をしているとはいえ、最上位の悪魔なので魔法の技術や精度は良い。

「もぉーつまんない。なんか面白い魔法ないの?」

 レイニーは飽きた表情をして呟いた。「面白い魔法……人間に出来ない魔法かな?」

「こんなのは、どうですか?」

 あーちゃんが擬態を変え、顔が二つになった。

「うわぁ。あーちゃん……キモいぃ……。それ、おばけか妖怪じゃん!」

 レイニーは心底気味悪そうな顔をして、あーちゃんを見た。

「……レイニー様が面白い魔法を見たいと言うから、お見せしようと思って擬態を変えたのですがっ!」

 あーちゃんが、ムスッとした表情でそっぽを向いた。

「わ、わわ、ご、ゴメン。あーちゃんっ♪」

 レイニーはあーちゃんを抱きかかえてご機嫌を取り、頭を撫でた。

「……では……」

 あーちゃんが二つの口で詠唱を始めた。

『『……ファイアショット』』

 二つのファイアショットが的に向かって放たれた。

「わぁ〜そういう方法もあるのか……すごーい。あーちゃん」

 あれは、真似できないなぁ〜多重魔法は出来ても、多重詠唱はムリだぁ〜負けたぁ。

「えへへっ♪ どうですか? レイニー様」

「すごい、すごい! 俺には真似できないよっ!」

「こんなこともできますよっ」

 ご機嫌になったあーちゃんが次の魔法を見せてくれた。

『……黒炎球』『……サイクロンエッジ』

 同時に魔法を発動すると黒炎が渦を巻き、的をキーン、キーン、キーンと複数音が鳴り響き、複数回斬りつけられているのが分かった。

「へぇ〜これって、多重魔法でも応用が出来るんじゃないのかな??」

 とレイニーは思ってニヤッとした。あーちゃんの隣で腕を伸ばし、無詠唱で二つの魔法を同時に放った。

『ファイアボール』『ウォーターボール』

 ゴルフボール大の二つの魔法が同じ的に当たると蒸気爆発を起こし、大音量の轟音と衝撃波が二人を襲った。当然、部屋に結界を張っていたので部屋の損壊や音が漏れることはなかった。

「威力が強く組み合わせを考えるのが面白そうだっ♪」

 とレイニーは思ってニコニコの笑顔になった。

「……レイニー様、今のは??」

 あーちゃんがレイニーの体をジロジロと見て観察してきた。

「……無いよ! 二つの口なんてっ!」

 ムッとした口調で言った。そんなオバケみたいなのはイヤすぎる……

「じゃあ、どうして二つの魔法が!!?」

 あーちゃんが不思議そうな顔をして、納得できないといった口調で問いかけた。

「多重詠唱じゃなくて、多重魔法だよ〜♪ えへっ」

「……なんですか、それ!? こんなに苦労して擬態をして魔法を使ってるのですよ? もぉ……」

 呆れた口調で言ってきたが、どこか嬉しそうに感じられた。

「あーちゃんから色々と教われそうだなぁ♪」

 と思い、あーちゃんを抱きしめた。モフモフとした感触がたまらないなぁ〜

 その夜に、嫌がるもふもふのあーちゃんを抱いて寝ると、あーちゃんは恥ずかしそうに観念して大人しくなり、幸せそうな表情をして一緒に眠った。

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